毎日自転車で40kmほどの距離を走りながら別の街に移動する、というサイクリング小旅行、それはそれで楽しいけれど、めんどくさいとも言える。それをおして3日間も自転車で移動できたのは、最終日は美味しいものを食べるというご褒美が待っていたからこそ。そもそもこのサイクリングツアー、このホテルを中心に計画したものでした。
ホテル内のレストランはミシュラン一つ星。この日はこのあたりにしては暑かったのもあってか、Tシャツに半パンなどの人もいて、全く気取っていない雰囲気。給仕の人たちもみんなブルターニュ名物のボーダーシャツ(カットソー?)着用。そういえば、ホテルの受付の人たちもみんなボーダーを着ていました。
ただの一つ星なので、すぐにテーブルに通されて、そこでメニューを決めます。3種類ほどコースがあって、せっかくだからとオマール海老のお皿のある一番いいコースを選択。ワインはペアリングにしてもらうことにする。みんなが一斉にやって来た感じで、全員に手が回らず、なんだかわさわさした感じ。しばらく待って、サービスのお兄さん(サービスの人はみんな若者)が木箱を持ってやって来た。そこには数種類のバターが入っていて、違いを説明してくれたあとで、お好きなのをどうぞというので、全種類いただきました。ホテル付属のパン屋のパンとともに色んなバターを味わいながら待ちます。バターはさすがにどれもこれも美味しくて、最初っからパンを食べすぎると後に差し支えるんだけどなぁ、と思いつつも、食べずにはおられませんでした。
下から、塩バター、アーモンドミルクで作ったバター(もどき)、海藻入りバター(割と流行りで、どこでもやってる感あり)、サリコーン入りバター(ブルターニュなど満干の差が激しい浜に生える草)、ブールノワゼット、焦がしバターを混ぜ込んだバター。
その後、ちまちましたおつまみの代わりに、こんなものが来た。そば粉のガレット(クレープ)の定番、ハムチーズ卵入りをRevisite, リビジテ、変形させたもの。そのまま食べるもよし、器の中で崩してスプーンで食べてもよし、お好きにどうぞとのこと。崩れそうなのを細心の注意を払いながら持ち上げて、パリパリさくっと一瞬で食べました。卵は感じなかったけれど、そば粉の生地にハムにチーズ、それぞれの味がしっかり再現されている。おいし〜い。もうひとつお願いしたいくらい。これでニコニコになって、最初のバタバタで大丈夫?と感じていたのは帳消しになりました。
その後、ブルターニュ産の鱒にオマール海老、ルージェ(ひめじ)。このマスはちょっぴり日本の塩じゃけっぽい。皮っぽいのは、本物の皮ではなく、海藻(訂正ー>海藻ではなくズッキーニを使ってあったもよう)を皮風にしてあった。
オマール海老は、もう火入れが完璧で、火は通っているけれど、通った瞬間で火入れを完全に止めた、というギリギリのところで、オマール海老の本来の味を堪能しました。さすがオマール海老の産地のシェフ。そして、ひめじ。これは小さい魚で、すぐに火が通るので、パサパサになりやすいのだけれど、これも完璧に調理してあった。やはりブルターニュ名物のアーティチョークと合わせてありました。
実はコースには、「本日のお肉料理」としか書いてなくて、なんのお肉かは明記してなかったし、最初の説明でも何なのか言ってくれなかったのですが、この日は実はハト。大嫌いで見るのも嫌なハト。まあ食べるとなると別なんですが、好き好んでは注文しない。まあしょうがない。最近、ハトを扱うシェフが多い。ハトという食材を扱うのには、ある程度の経験と技術が必要らしいので、それをアピールするためか?見かけはイマイチですが、これもまたオマール海老のように、火入れが完璧。生でもない、でも火がちゃんと入っている。ナイフを入れると、血はしたたたらずにさっと切れ、口当たりは柔らかいけれど歯ごたえもある。ジビエほど強烈ではないけれど、鶏肉のように淡白でもない、独特の味がある。ハトは過去に食べたことはあるけれど、印象に残っていない。もう少しソースがあるとさらに良かったけれど、美味しくいただきました。
ようやくデザート。フランボワーズとミント、いやミントのジュレにフランボワーズが添えてあると言った方がいいか。酸っぱくて、甘さは控えめすぎて、さっぱりはするけれど、最後の締めにはちょっと物足りないかな、と思っていたら、2つ目のデザートがやって来た。フランボワーズは口直し的なデザートだったらしい。
最後の締めは、このコースにふさわしいもの。ブルターニュと言えば、塩バターキャラメル。そのデザートクレープをまたしても再構築したもの。形はブルターニュ名物のクレープダンテルというお菓子を真似たもの。見栄えはしないけれど、これがまたもう美味しくて、もう一つ(いや二つ)お願いしたいくらいでした。というわけで、ブルターニュ名物をしっかり前に出して、最初と最後に定番料理を再構築して持ってくる、とってもよく考えらた、楽しいメニューで、大満足でした。
ちなみに、これがクレープダンテル。箱入りで、普通のスーパーで買えます。2個1組で銀紙(金色だけども)に包まれ、カフェなどでたまにコーヒのお供について来たり、アイスクリームにささっていたりします。これをバラバラに壊してチョコレートやプラリネと混ぜてお菓子の一部に使われたりもします。
右の写真は、ホテルに飾ってあった、1961年当時の夜のメニュー。ポタージュ、エビやカニなどの甲殻類をマヨネーズで、舌平目オランデーズソース、羊のもも肉ロースト(海辺で放牧され自然に塩味のするひつじ)インゲン豆煮、デザート、カフェ。時代を感じるラインナップ、今やこんなメニューを出すところは皆無だろう。
去年の二つ星よりもずっと満足した食事だったのですが、減点部分がないわけではなくて、それはワインでした。妙に自信たっぷりの若いソムリエ。ペアリングについて聞いた時、ものすごい種類のワインがあるので、皆さんの好みに合わせますよ、とのことだったので、それなら、コート・デュ・ローヌは避けてね、と言ったにもかかわらず、コート・デュ・ローヌの代表的白ワイン、コンドリューがやって来た。確かに有名なワインで、美味しいのを飲んだこともあるけれど、違うのがよかったわけです。それでも、これは本当に美味しいから、ちょっと飲んでみる?それで嫌だったら別なのに変えますよ、とでも言ってくれれば、味見をしただろうし、気に入ればそのまま受け入れたのだろうけれど、そういう申し出もなかったので、変えてもらったら、村名も地方の名前さえもないワイン(つまり表記はフランスワイン)がやって来た。釣り合い的にどうなの?と、なんとなく損した気分。たぶん私たちのためだけに一本いいワインを開けたくなかったんだろうけれど、その辺、ちょっとサービス精神に欠けているというか「ケチ」って思いました。